1-3

大家さんの家のインターフォンをピンポーンと鳴らす。

大家さん
はーい

紗奈
あの、フラワーマンションのものですが…

大家さん
はーいちょっと待っておくれよ

大家のおばさんが玄関に出てくる…が。
開口一番、

大家さん
…あんた誰だい

紗奈
あの203号室の…

大家さん
なんだって?

大家さん
フラワーマンションの203号室は、ずっとまえから空き家だよ!

紗奈
え、そんな…

大家さん
ひやかしなら帰っとくれ

”バタン”

無情に閉められる扉。

 

…その後203号室の鍵が空いてるのが見つかり、
私の部屋であるはずの
フラワーマンションの203号室には鍵をかけられてしまった…。

 

なんとかかけあおうとするも、
大家さんは帰っとくれの一点張り…。

紗奈
(ど、どうなっているのよ~…)

家に鍵をかけられ、大家さんに追い出されてしまった以上、
このまま警察に行っても、うまく説明できる自信がない。

紗奈
(…どうしよう…どういうことなの…?)

紗奈
(一体どうしたら…)

紗奈
(……)

紗奈
(…そうだ…。…雫を…頼ろう…)

雫は東京に出てきてからの友達で、
今一番話すことが多い子だ。

紗奈
(携帯電話…はないから、仕方がない…直接バイト先に行こう…)

紗奈
(うぅ…でも、ジャージで歩くの…勇気いるよ…)

紗奈
(靴はスリッパだし…歩きにくいし…。ぐす…)

涙が出そうになるのをぐっとこらえる。

 

 

…お金がなかったので当然電車にも乗れず、

結局、雫のバイト先まで来るのに
歩いて3時間くらいかかってしまった…。

紗奈
はぁはぁはぁ…ふぅ…

紗奈
…はあ…

ため息しかでない…。

やっとついたのは雫のバイト先である
ショッピングセンターファッション街。

ジャージとスリッパで歩くには死ぬほど勇気がいる場所…。
しかしそんなこと気にしているような場合、テンション、ではなかった。

私はさっそく雫を探すことにした。

紗奈
(…あっ!雫、いた!)

私は声をかけようと店頭にいる雫に近づいた。

紗奈
雫!

紗奈
仕事中にごめんね、ちょっと相談に乗ってほしいことが…

えっ?あ、あの…どちらさま…でしょうか…?

紗奈
えっ…?

申し訳ございませんが、お客様のお名前は…

紗奈
雫ちゃん、ふざけてるの…?

…あの…

おろおろする雫。

雫は、本気で困っているように…見える。

女の子
すみませーん

あ、はい、ただいま

すみません、御用が特にないのでしたら、仕事中ですので…

お客さんから声がかかったのを理由に、
雫はそそくさと売り場に戻って行ってしまった。

紗奈
……

何か言いたいのに言葉が出てこない。

呆然と立ち尽くす私…。

紗奈
(どう…なってるの…?)

紗奈
(なんかおかしいよみんな…。みんなで私をからかっているの…?)

紗奈
(…でも…みんなそんな感じじゃ…)

ふらふらとショッピングセンターのイスに座る。

…喉はカラカラ、お腹はペコペコ。
ずっと歩きにくいスリッパで3時間近く歩いてきて…
私の心と体はかなりの疲れを感じていた。

外をみるともうだいぶ暗くなっていた。

しばらくイスに座り途方に暮れていると、
『閉店のお時間です』との無情のアナウンス。

紗奈
(…出るしかない…)

外は雪がしんしんと降りだしていた。

 

>>