大家さんの家のインターフォンをピンポーンと鳴らす。
大家さん
はーい
紗奈
あの、フラワーマンションのものですが…
大家さん
はーいちょっと待っておくれよ
大家のおばさんが玄関に出てくる…が。
開口一番、
大家さん
…あんた誰だい
紗奈
あの203号室の…
大家さん
なんだって?
大家さん
フラワーマンションの203号室は、ずっとまえから空き家だよ!
紗奈
え、そんな…
大家さん
ひやかしなら帰っとくれ
”バタン”
無情に閉められる扉。
…その後203号室の鍵が空いてるのが見つかり、
私の部屋であるはずの
フラワーマンションの203号室には鍵をかけられてしまった…。
なんとかかけあおうとするも、
大家さんは帰っとくれの一点張り…。
紗奈
(ど、どうなっているのよ~…)
家に鍵をかけられ、大家さんに追い出されてしまった以上、
このまま警察に行っても、うまく説明できる自信がない。
紗奈
(…どうしよう…どういうことなの…?)
紗奈
(一体どうしたら…)
紗奈
(……)
紗奈
(…そうだ…。…雫を…頼ろう…)
雫は東京に出てきてからの友達で、
今一番話すことが多い子だ。
紗奈
(携帯電話…はないから、仕方がない…直接バイト先に行こう…)
紗奈
(うぅ…でも、ジャージで歩くの…勇気いるよ…)
紗奈
(靴はスリッパだし…歩きにくいし…。ぐす…)
涙が出そうになるのをぐっとこらえる。
…お金がなかったので当然電車にも乗れず、
結局、雫のバイト先まで来るのに
歩いて3時間くらいかかってしまった…。
紗奈
はぁはぁはぁ…ふぅ…
紗奈
…はあ…
ため息しかでない…。
やっとついたのは雫のバイト先である
ショッピングセンターファッション街。
ジャージとスリッパで歩くには死ぬほど勇気がいる場所…。
しかしそんなこと気にしているような場合、テンション、ではなかった。
私はさっそく雫を探すことにした。
紗奈
(…あっ!雫、いた!)
私は声をかけようと店頭にいる雫に近づいた。
紗奈
雫!
紗奈
仕事中にごめんね、ちょっと相談に乗ってほしいことが…
雫
えっ?あ、あの…どちらさま…でしょうか…?
紗奈
えっ…?
雫
申し訳ございませんが、お客様のお名前は…
紗奈
雫ちゃん、ふざけてるの…?
雫
…あの…
おろおろする雫。
雫は、本気で困っているように…見える。
女の子
すみませーん
雫
あ、はい、ただいま
雫
すみません、御用が特にないのでしたら、仕事中ですので…
お客さんから声がかかったのを理由に、
雫はそそくさと売り場に戻って行ってしまった。
紗奈
……
何か言いたいのに言葉が出てこない。
呆然と立ち尽くす私…。
紗奈
(どう…なってるの…?)
紗奈
(なんかおかしいよみんな…。みんなで私をからかっているの…?)
紗奈
(…でも…みんなそんな感じじゃ…)
ふらふらとショッピングセンターのイスに座る。
…喉はカラカラ、お腹はペコペコ。
ずっと歩きにくいスリッパで3時間近く歩いてきて…
私の心と体はかなりの疲れを感じていた。
外をみるともうだいぶ暗くなっていた。
しばらくイスに座り途方に暮れていると、
『閉店のお時間です』との無情のアナウンス。
紗奈
(…出るしかない…)
外は雪がしんしんと降りだしていた。